大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ネ)49号 判決

控訴人 高和名奈子

右訴訟代理人弁護士 斎藤政信

被控訴人 第一興業株式会社

右代表者代表取締役 谷弘

右訴訟代理人弁護士 布留川輝夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人から控訴人に対する東京法務局所属公証人梶川俊吉作成昭和四九年第一九九八号金銭消費貸借契約公正証書及び同公証人作成昭和五〇年第二三八二号金銭消費貸借契約公正証書に基づく強制執行はこれを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は原判決に摘示されたところと同一(たゞし原判決二枚目裏五行目及び末行の各「公正証書を作成」を、それぞれ「公正証書の作成を嘱託」と訂正する。)であるからこれを引用する。

理由

被控訴人から控訴人に対する債務名義として控訴人主張の二通の公正証書が存在することは当事者間に争いがない。

ところで、公正証書は、公証人法第二八条、第三一条、第三二条に則り、法定の方法による嘱託人の確認(代理人による嘱託の場合には更に法定の方法による代理権限の確認)を経た上で作成されるものであるから、その内容が関係当事者の意思に合致することは一般的制度的に保障されているものというべく、従って特段の具体的な反対事情について主張立証のないかぎり、公正証書に作成された当事者の意思表示は当該本人の意思に基づくものと推定される。ところが控訴人は原審及び当審を通じて何らかゝる具体的な反対事情について主張立証するところがない。

控訴人は、当審第一回口頭弁論期日に、その主張にかかる公正証書二通の原本及び附属書類一切の送付嘱託の申立をしている。しかし、控訴人の原審における不出頭の経過及び控訴人が、当審第一回口頭弁論期日に、裁判長から前記具体的な反対事情について釈明を求められ、右事情を次回に主張する旨述べながら、第二回口頭弁論期日に出頭せず、準備書面の提出もない事実を合わせ考えれば、右申立の一事をもって、前記判断を左右することはできない。

それゆえ、右各公正証書が控訴人の意思に基づいて作成されたものではないとしてその執行力の排除を求める控訴人の本訴請求は、理由がないことに帰する。

よってこれを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉田洋一 裁判官 蓑田速夫 松岡登)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例